日本アイ・ビー・エム 事件(会社分割と労働契約承継法)

(平成22年7月12日最高裁)

事件番号  平成20(受)1704

 

XはY社に雇用されていましたが、Y社が会社分割によりC社を新設し、

労働契約が、新設されるC社に承継されるとされたXらが、

労働契約の承継手続きに瑕疵があるため労働契約は新設会社に承継されず、

当該分割はXらに対する不法行為にあたると主張し、

Y社に労働契約上の地位確認および損害賠償を求めました。

 

最高裁判所の見解

5条協議は、労働契約の承継のいかんが労働者の地位に

重大な変更をもたらし得るものであることから、

分割会社が分割計画書を作成して個々の労働者の

労働契約の承継について決定するに先立ち、

承継される営業に従事する個々の労働者との間で協議を行わせ,

当該労働者の希望等をも踏まえつつ

分割会社に承継の判断をさせることによって、

労働者の保護を図ろうとする趣旨に出たものと解される。

ところで、承継法3条所定の場合には労働者は

その労働契約の承継に係る分割会社の決定に対して

異議を申し出ることができない立場にあるが、

上記のような5条協議の趣旨からすると、

承継法3条は適正に5条協議が行われ当該労働者の保護が

図られていることを当然の前提としているものと解される

 

この点に照らすと、

上記立場にある特定の労働者との関係において

5条協議が全く行われなかったときには、

当該労働者は承継法3条の定める労働契約承継の効力を

争うことができるものと解するのが相当である。

 

前記事実関係によれば,被上告人は、7条措置として、

前記のとおり本件会社分割の目的と背景及び

承継される労働契約の判断基準等について

従業員代表者に説明等を行い、情報共有のためのデータベース等を

イントラネット上に設置したほか、C社の中核となることが予定される

D事業所の従業員代表者と別途協議を行い、

その要望書に対して書面での回答もしたというのである。

 

これは,7条措置の対象事項を前記のとおり挙げた

指針の趣旨にもかなうものというべきであり、

被上告人が行った7条措置が不十分であったとはいえない

 

次に5条協議についてみると、前記事実関係によれば、

被上告人は,従業員代表者への上記説明に用いた資料等を使って、

ライン専門職に各ライン従業員への説明や

承継に納得しない従業員に対しての最低3回の協議を行わせ,

多くの従業員が承継に同意する意向を示したのであり、

また、被上告人は、上告人らに対する関係では、

これを代理する支部との間で7回にわたり

協議を持つとともに書面のやり取りも行うなどし、

C社の概要や上告人らの労働契約が承継されるとの判別結果を伝え、

在籍出向等の要求には応じられないと回答したというのである。

そこでは,前記のとおり、

分割後に勤務するC社の概要や上告人らが承継対象営業に

主として従事する者に該当することが説明されているが、

これは5条協議における説明事項を前記のとおり

定めた指針の趣旨にかなうものというべきであり、

他に被上告人の説明が不十分であったがために上告人らが

適切に意向等を述べることができなかったような事情もうかがわれない。

 

なお,被上告人は、C社の経営見通しなどにつき

上告人らが求めた形での回答には応じず、

上告人らを在籍出向等にしてほしいという要求にも応じていないが、

被上告人が上記回答に応じなかったのは

C社の将来の経営判断に係る事情等であるからであり、

また,在籍出向等の要求に応じなかったことについては、

本件会社分割の目的が合弁事業実施の一環として

新設分割を行うことにあり、

分割計画がこれを前提に従業員の労働契約を

C社に承継させるというものであったことや、

前記の本件会社分割に係るその他の諸事情にも照らすと、

相応の理由があったというべきである。

 

そうすると、本件における5条協議に際しての

被上告人からの説明や協議の内容が著しく不十分であるため、

法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかであるとはいえない

以上によれば,被上告人の5条協議が不十分であるとはいえず、

上告人らのC社への労働契約承継の効力が

生じないということはできない

 

また,5条協議等の不十分を理由とする不法行為が成立するともいえない

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

 

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