指導要綱に基づいて事業主に教育施設負担金の寄付を求めた行為

(平成5年2月18日最高裁)

事件番号  昭和63(オ)890

 

この裁判では、

市がマンションを建築しようとする事業主に対して

指導要綱に基づき教育施設負担金の寄付を求めた行為が

違法な公権力の行使に当たるかについて

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

行政指導として教育施設の充実に充てるために事業主に対して

寄付金の納付を求めること自体は、

強制にわたるなど事業主の任意性を損うことがない限り、

違法ということはできない。

 

しかし、指導要綱は、法令の根拠に基づくものではなく、

被上告人において、事業主に対する

行政指導を行うための内部基準であるにもかかわらず、

水道の給水契約の締結の拒否等の制裁措置を背景として、

事業主に一定の義務を課するようなものとなっており、また、

これを遵守させるため、一定の手続が設けられている。

 

そして、教育施設負担金についても、

その金額は選択の余地のないほど具体的に定められており、

事業主の義務の一部として寄付金を割り当て、

その納付を命ずるような文言となっているから、

右負担金が事業主の任意の寄付金の趣旨で

規定されていると認めるのは困難である。

 

しかも、事業主が指導要綱に基づく

行政指導に従わなかった場合に採ることがあるとされる

給水契約の締結の拒否という制裁措置は、

水道法上許されないものであり、

右措置が採られた場合には、

マンションを建築してもそれを住居として

使用することが事実上不可能となり、

建築の目的を達成することが

できなくなるような性質のものである。

 

また、被上告人がFに対し

教育施設負担金の納付を求めた当時においては、

指導要綱に基づく行政指導に従うことができない事業主は

事実上開発等を断念せざるを得なくなっており、

これに従わずに開発等を行った事業主はE建設以外になく、

そのE建設の建築したマンションに関しては、

現に水道の給水契約の締結及び下水道の使用が拒否され、

その事実が新聞等によって報道されていたというのである。

 

さらに、Fが被上告人の担当者に対して

本件教育施設負担金の減免等を懇請した際には、

右担当者は、前例がないとして拒絶しているが、

右担当者のこのような対応からは、

本件教育施設負担金の納付が事業主の

任意の寄付であることを認識した上で

行政指導をするという姿勢は、

到底うかがうことができない。

 

右のような指導要綱の文言及び運用の実態からすると、

本件当時、被上告人は、事業主に対し、

法が認めておらずしかもそれが実施された場合には

マンション建築の目的の達成が事実上不可能となる

水道の給水契約の締結の拒否等の制裁措置を背景として、

指導要綱を遵守させようとしていたというべきである。

 

被上告人がFに対し指導要綱に基づいて

教育施設負担金の納付を求めた行為も、

被上告人の担当者が教育施設負担金の減免等の懇請に対し

前例がないとして拒絶した態度とあいまって、Fに対し、

指導要綱所定の教育施設負担金を納付しなければ、

水道の給水契約の締結及び

下水道の使用を拒絶されると考えさせるに

十分なものであって、マンションを建築しようとする以上

右行政指導に従うことを余儀なくさせるものであり、

Fに教育施設負担金の納付を事実上

強制しようとしたものということができる。

 

指導要綱に基づく行政指導が、

武蔵野市民の生活環境をいわゆる乱開発から

守ることを目的とするものであり、

多くの武蔵野市民の支持を受けていたことなどを考慮しても、

右行為は、本来任意に寄付金の納付を求めるべき

行政指導の限度を超えるものであり、

違法な公権力の行使であるといわざるを得ない

 

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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