医療観察法による処遇制度と憲法14条,22条1項,31条
(平成29年12月18日最高裁)
事件番号 平成29(医へ)16
この裁判では、
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び
観察等に関する法律による処遇制度と
憲法14条,22条1項,31条について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
医療観察法は,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し,
その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより,
継続的かつ適切な医療並びにその確保のために
必要な観察及び指導を行うことによって,
その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り,
もってその社会復帰を促進することを目的としており(1条1項),
この目的は正当なものというべきである。
そして,医療観察法は,対象者について,
「対象行為を行った際の精神障害を改善し,
これに伴って同様の行為を行うことなく,
社会に復帰することを促進するため,
この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」には,
入院をさせる又は入院によらない医療を
受けさせる旨の決定(42条1項1号,2号)
をしなければならない等と規定しているところ,
このような処遇は上記目的を達成するため必要かつ合理的なものであり,
その要件も上記目的に即した合理的で相当なものと認められる。
医療観察法の審判手続をみると,刑事手続とは異なり,
裁判所が職権によって事実を探知する手続を採用し(24条),
審判期日における審判は公開しないとしている(31条3項)。
また,原則として,一人の裁判官及び
一人の精神保健審判員の合議体で処遇事件を取り扱う(11条1項)こととし,
弁護士による付添人の制度を設け(30条),
付添人に意見陳述権や資料提出権(25条2項),
審判期日への出席権(31条6項),記録又は
証拠物の閲覧権(32条2項)等を認め,
検察官による申立てに係る処遇事件の審判においては,
付添人を付さなければならず(35条),
審判期日の開催を原則として必要的とし(39条1項),
審判期日では,対象者に対し,
供述を強いられることはないことを説明するなどした上で,
対象者及び付添人から意見を聴かなければならないと
している(39条3項)。
さらに,対象者及び付添人等に抗告権(64条2項),
退院の許可又は医療の終了の申立権(50条,55条)を認めるなど,
対象者に必要な医療を迅速に実施するとともに,
対象者のプライバシーを確保し,円滑な社会復帰を図るため,
適正かつ合理的な手続が設けられている。
ところで,憲法31条の定める法定手続の保障は,
直接には刑事手続に関するものであるが,
当該手続が刑事手続ではないとの理由のみで,
そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると
判断することは相当でなく,その保障の在り方については,
刑事手続との差異を考慮し,当該手続の性質等に応じて
個別に考えるべきものであるところ,上記のとおり,
医療観察法においては,その性質等に応じた
手続保障が十分なされているものと認められる。
以上のような医療観察法の目的の正当性,同法の規定する処遇及び
その要件の必要性,合理性,相当性,手続保障の内容等に鑑みれば,
医療観察法による処遇制度は,
憲法14条,22条1項に違反するものではなく,
憲法31条の法意に反するものということも
できないと解するのが相当である。
このように解すべきことは,
当裁判所の判例(最高裁昭和37年(オ)第1472号
同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,
最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・
民集46巻5号437頁)の趣旨に徴して明らかである。
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