被疑者をホテル等に宿泊させてした取調べは任意捜査の方法として違法か
(昭和59年2月29日最高裁)
この裁判では、
被疑者を所轄警察署近辺のホテル等に宿泊させて取調べを続行したことが
任意捜査の方法として違法とまではいえないとされた事例について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
任意捜査の一環としての被疑者に対する取調べは、
右のような強制手段によることができないというだけでなく、さらに、
事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、
被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と
認められる方法ないし様態及び限度において、
許容されるものと解すべきである。
これを本件についてみるに、まず、
被告人に対する当初の任意同行については、
捜査の進展状況からみて被告人に対する容疑が強まっており、
事案の性質、重大性等にもかんがみると、
その段階で直接被告人から事情を聴き弁解を徴する
必要性があったことは明らかであり、
任意同行の手段・方法等の点において
相当性を欠くところがあったものとは認め難く、また、
右任意動向に引き続くその後の被告人に対する取調べ自体については、
その際に暴行、脅迫等被告人の供述の任意性に
影響を及ぼすべき事跡があつたものとは認め難い。
しかし、被告人を4夜にわたり捜査官の手配した宿泊施設に宿泊させた上、
前後5日間にわたつて被疑者としての取調べを続行した点については、
原判示のように、右の間被告人が単に
「警察の庇護ないしはゆるやかな監視のもとに
置かれていたものと見ることができる」
というような状況にあったにすぎないものといえるか、
疑問の余地がある。
すなわち、被告人を右のように宿泊させたことについては、
被告人の住居たる C荘は高輪警察署からさほど遠くはなく、
深夜であっても帰宅できない特段の事情も見当たらない上、
第一日目の夜は、捜査官が同宿し被告人の挙動を直接監視し、
第二日目以降も、捜査官らが前記ホテルに同宿こそしなかったものの
その周辺に張り込んで被告人の動静を監視しており、
高輪警察署との往復には、警察の自動車が使用され、
捜査官が同乗して送り迎えがなされているほか、
最初の三晩については警察において宿泊費用を支払っており、
しかもこの間午前中から深夜に至るまでの長時間、
連日にわたって本件についての追及、取調べが続けられたものであって、
これらの諸事情に徴すると、被告人は、捜査官の意向にそうように、
右のような宿泊を伴う連日にわたる長時間の取調べに
応じざるを得ない状況に置かれていたものとみられる一面もあり、
その期間も長く、任意取調べの方法として
必ずしも妥当なものであったとはいい難い。
しかしながら、他面、被告人は、右初日の宿泊については
前記のような答申書を差し出しており、また、
記録上、右の間に被告人が取調べや宿泊を拒否し、調べ室あるいは
宿泊施設から退去し帰宅することを申し出たり、
そのような行動に出た証跡はなく、捜査官らが、
取調べを強行し、被告人の退去、帰宅を拒絶したり制止したというような事実も
窺われないのであって、これらの諸事情を総合すると、
右取調べにせよ宿泊にせよ、結局、被告人が
その意思によりこれを容認し
応じていたものと認められるのである。
被告人に対する右のような取調べは、
宿泊の点など任意捜査の方法として
必ずしも妥当とはいい難いところがあるものの、
被告人が任意に応じていたものと認められるばかりでなく、
事案の性質上、速やかに被告人から詳細な事情及び
弁解を聴取する必要性があったものと認められることなどの
本件における具体的状況を総合すると、結局、
社会通念上やむを得なかったものというべく、
任意捜査として許容される限界を越えた違法なものであったとまでは
断じ難いというべきである。
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