民法110条の正当理由

(昭和51年6月25日最高裁)

事件番号  昭和50(オ)978

 

この裁判では、 電気器具の販売会社が

継続的商取引上の債権担保のため保証人本人の実印の押してある

本人名義の契約書と本人の印鑑証明書とを持参した代理人との間で

連帯根保証契約を締結した場合に

民法110条の正当理由があるといえるかについて

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

所論は、本件について右の正当理由の存在を肯認した

原審の判断を争うので按ずるに、印鑑証明書が日常取引において

実印による行為について行為者の意思確認の手段として

重要な機能を果たしていることは否定することができず、

被上告人会社としては、上告人の保証意思の確認のため

印鑑証明書を徴したのである以上は、特段の事情のない限り、

前記のように信じたことにつき

正当理由があるというべきである。

 

しかしながら、原審は、他方において、被上告人会社が

D2に対して本件根保証契約の締結を要求したのは、

訴外会社との取引開始後日が浅いうえ、訴外会社が

代金の決済条件に違約をしたため、

取引の継続に不安を感ずるに至ったからであること、

被上告人会社は、当初、D2に対し同人及び同人の実父

(原判決挙示の証拠関係によれば、

訴外会社の親会社であるD3の経営者でもあることが窺われる。)

に連帯保証をするよう要求したのに、

D2から「父親とは喧嘩をしていて保証人になってくれないが、

自分の妻の父親が保証人になる。」との申し入れがあって、

これを了承した(なお、上告人はD2の妻の父ではなく、

妻の伯父にすぎない。)こと、上告人の代理人として

本件根保証契約締結の衝にあたったD2は右契約によって

利益をうけることとなる訴外会社の代表取締役であることなど、

被上告人会社にとって本件根保証契約の締結における

D2の行為等について疑問を抱いて然るべき事情を認定し、

また、原審認定の事実によると、

本件根保証契約については、

保証期間も保証限度額も定められておらず、

連帯保証人の責任が比較的重いことが推認されるのであるから、

上告人みずからが本件約定書に記名押印をするのを

現認したわけでもない被上告人会社としては、

単にD2が持参した上告人の印鑑証明書を徴しただけでは、

本件約定書が上告人みずからの意思に基づいて作成され、

ひいて本件根保証契約の締結が上告人の意思に

基づくものであると信ずるには足りない

特段の事情があるというべきであって、

さらに上告人本人に直接照会するなど可能な手段によって

その保証意思の存否を確認すべきであったのであり、

かような手段を講ずることなく、

たやすく前記のように信じたとしても、

いまだ正当理由があるということはできないといわざるをえない

 

しかるに、原審は、被上告人会社が

金融業者ではないことの故をもって、

右のような可能な調査手段を有していたかどうかにかかわらず、

民法110条の類推適用による正当理由を肯認できると

判断しているのであるが、右の判断は同条の解釈適用を誤り、

ひいて審理不尽、理由不備の違法があるというべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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